仮題 連作小説[一抹の未来]【一葉の写真】

その頃、人類は平均千年以上平均で生きる世の中になっていた。然し、俺H.Kが以前恋焦がれていたS.Rはすでに他界していた。不老の技術、通称[ガンマGX]が現した後彼女が尚生きていたならば彼女の死を悔やむ筈も無かったのに。そんな事を思い乍ら宇宙船で小惑星間を探索していた。今は往復の復路だが、近づく目的値は双子ぶあっくホールが眠る銀河系だ。現代の科学ではこれらの軌道計算は解析出来る。電光掲示板に宇宙船の有効活動範囲見つめ乍ら、上司と交信している。

「近年の地球のゴミ問題については熟知しているだろうか。リニアモーター、放射性廃棄物、*1水不足に伴う水道群の設備、これらを一気に解決する瀬戸際に我々は立たされている。」「承知しております。」「人類が火星に移住出来る時代でも、大古

の昔からある水不足の悩みは消えない。」<中略>さぁ、仕事だ。そう思って俺はハッチを開ける為ボタン1を押した。俺の今の立場は世界初、今人類が直面しているゴミを廃棄する実験だ。実験開始すると、ゴミが吐き出された。このゴミは以前発生した疫病を抹殺する過程で作られたキメラの形をした生物兵器だ。キメラに人権があるか*2以前裁判沙汰になったな.キメラが悲鳴を上げながら吸い込まれていく。彼らの人口心臓につけられた拍動が徐々に弱まっていく表示を見て、俺は特に哀れみを感じなかった。

 どうやら問題なく吸い込めるので、ゴミ問題は解決しそうだ。取り敢えず実験過程の次をやろう。ボタン2を押すと次のゴミが吐き出された。このゴミはさっき上官も言っていた排水設備に関するゴミだ。水不足の時代の重要なインフラだが、かなり複雑な構造になっている。度重なる地震により寸断されてしまった。これはそれに関するゴミだ。これも無事吸い込まれた。この実験は少しやり甲斐を感じた。

何故ならば水不足の時代何億という人があえいでいるのだから助けになれば嬉しい。3つ目のボタンを押すと10年前脚光をあびた菓子の残りを放出した。こんな不要な物を要求し続ける顧客の立場が俺には理解出来ない。思えば第5次世界大戦は大変だった。人類の大半が死滅した、あの戦争。復興の為に頑張った100年前の先祖様はこの光景を見たらどう思うだろう。」正確にはこの歌詞は非常に人工的で脳に移植された電極が直接作用して風味を調節する。然し叡王が取れないわりに莫大なコストがかかるのでぜいたくこの上無い食材だ。歌詞についても砕け散るが如く吸い込まれていった。

 任務をひとしきり終え、問題を解決する、という電報を打つ事になった。

 

 「任務を終えました」「君は人類が編み出したこの手法によってゴミ問題を解決する貴重な糸口を見出した訳だ。よくやった。」「参考程度に聞きたいが、君はこういった何でもきがねなく捨てられる状況において、それでも捨てきれない物はあるかね?」…沈黙の後俺は言った。「矢張り思い出ですかね、忘れてはいけない事もあるので。」「それは他人との記憶?」「はい」「誰?」「僕の思い人の、S.Fです」と俺は写真を上司に映像を介して見せた。「それを*3完全防御瓶に詰めろ」「はぁ」「今度は君を廃棄する番だ、知っての通りこのプロジェクトには往路で莫大なコストがかかった。だから、君には悪いが宇宙船ごと廃棄してもらう。これも任務だ、悪く思うなよ。」そう言い終えると上官はボタンを押すと途端に宇宙空間に放り出された。俺もここまでか、人生最後の仕事は、こんな茶番で終わってしまう。回収される身になると何だかあのキメラでさえ可哀そうになって来た。後、配水設備についてのやり甲斐も今となってはどうでも良いな。菓子については過去の人類が矢張り愚かしい。それでも彼女との記憶が残るなら…」<死>

 上官「彼には悪いが他界してもらった。以前*4ニセフォール ニエプスとかいう人の発明による写真だけが、彼の遺影か…」

 【一葉の写真 完】 

<補足、脚注>

*1 この時代においても水の人工合成は成功していない

*2 通称、キメラ裁判

*3 あらゆる物を防御可能な物質で出来た瓶、ただし一度封じると2度と元に戻らない

*4 ニセフォール ニエプス